拓海広志「『ミッドナイトイーグル』を観る : 高嶋哲夫さん」

 高嶋哲夫さんの小説『ミッドナイトイーグル』が映画化されたので観てきました。以前『LIMIT OF LOVE 海猿』や『日本沈没』(リメイク版)といった映画を観たときにも同様のことを感じたのですが、関係省庁・機関(『ミッドナイトイーグル』は防衛省、『LIMIT OF LOVE 海猿』は海上保安庁、『日本沈没』(リメイク版)は海洋研究開発機構など)の協力を得てリアルな映像を可能にした割には、ストーリー展開に不自然さを感じさせる箇所が多かったのは少々残念です。


 また、これらの映画に共通するのは、俳優たちに感傷的な台詞を冗長に喋らせ過ぎだということで、いずれももう少し「間」の演技でうまく感情を表現してほしかったなぁ、と思います。もっとも、ついこういう文句が出てくるのも、高嶋さん(『ミッドナイトイーグル』)、佐藤秀峰さん(『海猿』)、小松左京さん(『日本沈没』)の書いた原作に対して僕の個人的な思い入れが強すぎたせいで、それを抜きにすれば実は三作とも結構面白く観ました。


 高嶋哲夫さんが『イントゥルーダー』でサントリーミステリー大賞・読者賞を受賞し、同作品がテレビドラマ化されたのは1999年のことです。当時、僕は神戸・垂水漁港近くの居酒屋「ルパン3世」で仲間と共に高嶋さんの受賞を祝う宴を催したのですが、そこで「実はまだ数多くの未発表作品のストックがあるんだ」と語っておられた高嶋さんは、その後かなりハイペースで数多くの作品を発表してきました。僕はそれらを一通り読んできたのですが、『ミッドナイトイーグル』もそうした作品群の中で印象に残ったものの一つです。


 かつて日本原子力研究所の研究員だった高嶋さんには、科学や技術に携わる人への深い愛情と理解がありますが、同時に人が科学や技術を過信してはならないという強い信念もお持ちで、こうしたこだわりがしばしば高嶋さんの作品のモチーフとなっています。また、高嶋さんの小説の主人公は自分の仕事に対してプロとしての高い誇りと強い使命感を持つ人物であることが多いのですが、仕事人間過ぎるが故に家族との間に揺らぎが生じてしまうものの、やがてお互いを理解し、信頼し合うことによって家族が再生されるという展開が多いです。


 『ミッドナイトイーグル』でも基調となっているのは、『イントゥルーダー』以来一貫するこの高嶋さんのこだわりです。これは現代を生きる多くの人にとって共感できるものであり、それが高嶋さんの小説が広い読者層に受け入れられている理由なのでしょう。初めて高嶋さんの本を読む人に僕がお薦めするのは『イントゥルーダー』なのですが、高嶋さんには塾経営者・教師としてのバックグランドもあり、教育問題についての発言にも傾聴すべきものがあります−その方面の著作には『塾を学校に』『ダーティー・ユー』などがあります(後者は小説)。高嶋さんの作品には『ミッドナイトイーグル』以外にも映画化の話があるそうなので、今後が楽しみです。


 ※関連記事
 「高嶋哲夫さんのオフィシャルページ」
 拓海広志『親父のダンディズム』


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


Link to AMAZON『ミッドナイトイーグル』

ミッドナイトイーグル (文春文庫)

ミッドナイトイーグル (文春文庫)

東京大洪水 (集英社文庫)

東京大洪水 (集英社文庫)

Link to AMAZON『イントゥルーダー』
イントゥルーダー (文春文庫)

イントゥルーダー (文春文庫)

Link to AMAZON『M8』
M8 (集英社文庫)

M8 (集英社文庫)

Link to AMAZON『ペトロバグ』
ペトロバグ―禁断の石油生成菌 (文春文庫)

ペトロバグ―禁断の石油生成菌 (文春文庫)

Link to AMAZON『トルーマン・レター』
トルーマン・レター

トルーマン・レター

Link to AMAZON『都庁爆破!』
都庁爆破! (宝島社文庫)

都庁爆破! (宝島社文庫)

Link to AMAZON『TSUNAMI』
TSUNAMI 津波

TSUNAMI 津波

Link to AMAZON『フレンズ−シックスティーン』
Link to AMAZON『ダーティー・ユー』
ダーティー・ユー (光文社文庫)

ダーティー・ユー (光文社文庫)

Link to AMAZON『塾を学校に』
塾を学校に―「教育改革」への一石 (宝島社新書)

塾を学校に―「教育改革」への一石 (宝島社新書)

Link to AMAZON『日本沈没(上)』
日本沈没 上 (小学館文庫 こ 11-1)

日本沈没 上 (小学館文庫 こ 11-1)

Link to AMAZON『日本沈没(下)』
日本沈没 下 (小学館文庫 こ 11-2)

日本沈没 下 (小学館文庫 こ 11-2)

Link to AMAZON『日本沈没』
Link to AMAZON『海猿(1)』
海猿 (1) (小学館文庫 (さI-1))

海猿 (1) (小学館文庫 (さI-1))

Link to AMAZON『LIMIT OF LOVE 海猿』
LIMIT OF LOVE 海猿 スタンダード・エディション [DVD]

LIMIT OF LOVE 海猿 スタンダード・エディション [DVD]