拓海広志「続々々・神戸大学にて・・・」

 2009年、2010年、2011年に続いて、今年も神戸大学キャリアセンターの依頼で、同大学全学部の希望者を対象に「職業と学び−キャリアデザインを考える」というテーマの授業を行いました。


 2009年の授業は「モノを運ぶことは、心を運ぶこと−国際物流と貿易の仕事、そしてNPO活動を通して」というタイトルで、僕の海との付き合い方と旅の話、貿易・国際物流・ロジスティクス・SCMと仕事の話、国際・民際交流や環境活動支援などのNPO活動の話、僕がかつて「アルバトロスクラブ」というNPOにおいて実現した「ミクロネシアの伝統的帆走カヌーによるヤップ〜パラオ間の石貨交易航海再現プロジェクト」の話、異文化コミュニケーションとMulti Cultural Managementの話、神戸が持つコスモポリタンな文化土壌の話などをネタにしながら、学生たちとの対話形式で進めました。


 また、2010年の授業は「越境するモノたち―物流におけるグローバル化」というタイトルで、モノの調達、製造、販売のグローバル化が加速する中で、そのSCMとロジスティクスの現場がどうなっているのかといったことや、ビジネスコミュニケーションのあり方について、学生たちとの対話形式で進めました。


 2011年は「価値を生み出す仕事とは?」というタイトルの授業を行いました。まず、バリュー・チェーン、バリュー・プロポジション、またカスタマーエクスペリエンスの考え方の基本を学生たちに説明した上で、仕事の連鎖の中でどうすれば顧客や仲間、社会への「価値」を生み出すことができるのか、また最高の価値である「信頼」をどのように築いていくのかについて、やはり学生たちとの対話形式で進めました。


 そして、今年の授業は「真の人財とは何か?」というタイトルで行いました。僕は仕事における「人財」の定義を「仕事を通してお客様や仲間、社会に対して価値を提供でき、かつ仕事を通して自分の人生を価値あるものにできる人」だとしています。また、巷間ではよく「今はグローバル人材が必要な時代だ」といった話が出ますが、僕はただのグローバル人材ではなかなか世界では通用しないと思っています。グローバルで普遍的な価値を提供すると同時に、様々な地域・国や地方あるいはコミュニティや組織のローカルな文化にも適応し、それぞれに合った価値をも提供できるようになるためには、グローバルとローカルを併せ持ったグローカルで柔軟な思考や仕事の仕方、コミュニケーションのスキルが必要なのです。そういった観点から、真の人財について学生たちと話し合ってみたのが、今回の授業です。

 
 毎回、この授業に参加する学生たちは非常に熱心で、授業中もなかなか積極的に発言や質問をしてくれますが、授業後も個別に僕に質問をしてくる学生たちが多くて1時間以上もつかまってしまいます。さらにその後も質問のメールを送ってきてくれたり、もっと詳しい話を聞くためにわざわざ僕に会いに来る学生も何人かいたりして、僕は神戸大学の学生たちがとても好きになりました。今回も授業後に数人の学生たちと町にお酒を飲みに行き、さらに議論が盛り上がりました。そこで、前々々回、前々回、前回と同様に、受講してくれた学生諸君のレポートから幾つか抜粋し、紹介してみようと思います(複数の方のコメントを一つにまとめたものもあります)。


   *   *   *   *   *


※Aさん「ビジネスで成功するためには利己的になってはならず、お客様や仲間、社会に対してどのような価値を提供できるかを本気で考え抜かねばならない。自分の仕事の価値を決めるのは、お客様、仲間、社会であるという話には衝撃を受けました。また、営業で成功するためにはお客様の目先の問題を解決するだけではダメで、その問題がなぜ起こるのかをお客様と一緒に考えていかねばならない。その為には高いコミュニケーション能力が必要だと学びました」


※Bさん「拓海さんからの問いかけが多く、対話形式の授業だったため、ひとつひとつの問題を自分なりに深く考えることができました。これまで企業とは利潤を出すことしか考えていない冷たい組織というイメージだったたけに、今回の授業で企業のビジネスに対するイメージが変わりました。企業がお客様に提供する価値の最上部に「信頼」があるということの意味も非常に深いものであることがわかりました」


※Cさん「ビジネスコミュニケーションの基本は「率直・正直・公正」「簡潔・明瞭・論理的」「情熱・感謝・パーソナル」であると拓海さんから教わりましたが、その根底には「相手に価値を提供すること」と「価値の階層の最上部に位置する信頼を構築すること」を大切にする考えがあることを理解しました」


※Dさん「ビジョンが見えないと面白みを感じないという話はもっともだと思いました。大切なのはビジョン化された目的であり、目標や手段と目的を混同してはいけないという話も素直に頷けるもので、僕も目的を明確にして仕事に取り組んでいきたいと思います」


※Eさん「拓海さんの話を聞いて、組織におけるマネージャーの役割の大きさを理解することができました。「組織のバリューを共有しているのに成果を上げられない部下に対しては、不足しているナレッジやスキルを部下に身につけさせるか、その仕事の仕方(プロセス)にメスを入れる必要がある。見かけ上の成果を上げていても組織のバリューを共有できていない部下に対しては、正面からきちんと対話しなければならない」という話は奥が深いと思いました」


※Fさん「Inside-out Thinkingは恋、Outside-in Thinkingは愛だという話は面白く、わかりやすかったです。手前勝手な恋ではなく、深い愛を持って相手のことを考えるという姿勢がビジネスやマネジメントの現場でも必要だという拓海さんの話は、私の胸にストンと落ちました」


※Gさん「これまでに60ケ国近くを訪ね、その内の多くの国で仕事をしてきた拓海さんが「どの国にいても基本的なことは同じ」と語るのは、拓海さんが通り一遍なグローバリズムで物事を語っているのではなく、人間として普遍的に大切にすべきことを見つめながら、同時にローカルな文化や価値観を大切にしているからだと理解しました」


※Hさん「今回の授業では、「何のために、誰のために働くのか?」ということについて深く考えさせられました。どんなビジネス、職業も「お客様(相手)」がいることで成り立ちます。「ビジネス=相手のことを考える」「相手に価値を提供するためにはどうすればよいか?」といった拓海さんの言葉はとても身に沁みました」


※Iさん「「ワークはライフの一部に過ぎない。しかし、非常に重要な一部であり、ワークを通してライフの価値は上がる。だから、ワークライフバランスという言葉はそもそもおかしい」という拓海さんの話には最初びっくりしましたが、よく話を聞いてみて納得・共感しました。仕事は人生の重要な一部であるからこそ、仕事にはそれに関わる人の人間性が全面的に現れるのですね」


※Jさん「就職活動の中で接した多くの企業が「お客様の求める価値を提供します」「お客様のニーズを引き出します」などと強調するのを聞きましたが、その話の多くは曖昧なものでした。今回拓海さんの話を聞いて、価値の構造や位置づけ、相手のニーズを引き出す手法(質問技法)などについて具体的に理解することができました」


※Kさん「私がグローバルについて考えるとき、いつも気にかけるのはローカルな特性であったり、「当たり前」は文化や人によって違うということであり、どうしても差異に注目しがちです。拓海さんはそうしたことの重要性を語った上で、世界中どこに行っても共通する普遍的な価値観や人間的な魅力があるとも語られ、その両方について理解せねばならないと思いました」


※Lさん「今日の拓海さんの話を、自分の部活動と重ね合わせて聞いていました。今、英語劇の公演に向けて準備をしていますが、練習が辛いものにしか感じられない人、自己満足してあまり練習をしない人など、様々なメンバーがいます。そこで「あなたが成功すれば、劇も成功する」「ボロボロになっても愉しいと思えることで、良い劇を上演できる」という風に拓海さんの言葉を言い換えて、皆でもっと練習に励もうと思いました」


※Mさん「これまで色々な人からキャリアについての話を聞く中で、コミュニケーションスキルが重要だという話はよく耳にしました。しかし、拓海さんの話はとても具体的でわかりやすく、実はビジネスコミュニケーションと言っても、人間が社会で生活していく上で基本的に求められるものなのだということに思い至りました」


※Nさん「拓海さんの転職のルール=「今までよりも難しく、新しい、ワクワクするようなチャレンジが待っていること」&「一緒に思い切り汗を流したいと思える仲間がいること」を聞いて、自分も社会に出て仕事をするのが楽しみになってきました」


※Oさん「「今求められている人財は、人の気持ちに敏感で、想像力のある人だ」「本当に優秀なビジネスマンは本気で相手(お客様や仲間、社会)のことを考えており、人間的に素晴らしく魅力的な人が多い」と拓海さんが語るのを聞いて、社会で仕事をすることに対するモチベーションが上がりました」


※Pさん「「信頼が企業が顧客に提供する価値として最上部に位置する理由は、それが困難かつ重大な意思決定のリスクを軽減するからだ」という拓海さんの話を聞いてハッとしました。今日の話は間違いなく自分の人生の糧になると思います」


※Qさん「個々人の性格に関して「何をもって長所、短所とするかは環境・状況や相手によって変わるから、あまり気にする必要はない。それよりも自身の性格と相手の性格、また環境・状況を理解した上で、自分の性格をうまく使いこなすことの方が重要」という話をされたのは、とても参考になりました」


   *   *   *   *   *


 神戸大学学生の皆さん、ありがとうございました。いただいたご質問に対しては、可能な限り個別に回答をさせていただきたいと思います。また、機会があれば神戸の六甲台か深江浜でお会いしましょう!


(無断での転載・引用はご遠慮ください)




神戸大学での授業と授業後の懇親会にて・・・】


ビジュアルでわかる船と海運のはなし

ビジュアルでわかる船と海運のはなし