拓海広志「『パイレーツ・オブ・カリビアン』を観る」
今夏は『パイレーツ・オブ・カリビアン』の第2作「デッドマンズ・チェスト」がロードショーとなりましたが、僕としては第1作の「呪われた海賊たち」の方が作品としてまとまっていて面白いと感じました。このシリーズは第3作もあるそうなので、次に期待しましょう! このレビューは第1作「呪われた海賊たち」について以前書いたものです。
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ここ数年の間に上映された海や船をテーマにした大作には『タイタニック』がありますし、僕がその音楽と映像に耽溺し、しばしば深夜にブランデー片手にビデオを観ている『海の上のピアニスト』があります。また、今年上映された『マスター・アンド・コマンダー』は帆船ファンにはたまらない名作ですし(幸運なことに、僕はこの映画に使用された船「サプライズ」にサンディエゴ港で出会い、船内を見学しました)、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の『永遠の語らい』で描かれる地中海の映像はあまりにも美しくて哀しく、衝撃的です。さらにアニメ映画『ワンピース・デッドエンドの冒険』も僕が大好きな『ルパン3世』の海賊版といったノリで良かったですし、僕の大好きな街シドニーを舞台とした『ファインディング・ニモ』もまずまずの佳作でした。しかし、大人も子供も一緒になって底抜けに楽しめるエンターテーメント映画ということになると、『パイレーツ・オブ・カリビアン』がお勧めでしょう。
ヨーロッパの大航海時代は、その窮屈な階級社会から自由を求めて海に乗り出していった海賊たちの時代でもありました。特にかつてのカリブ海は、スペインが中南米を植民支配し、そこから収奪した銀や財宝を本国へ運ぶようになったため、それを狙ってイギリスやオランダ、フランスなどヨーロッパ各地からやって来た荒くれ者たちが海賊=バッカニアとなって暴れまわった海です。そんな中、イギリスのエリザベス1世は私掠船という形で海賊行為を公認、奨励したため、フランシス・ドレークやトーマス・キャベンディッシュに代表される毀誉褒貶の多い海の荒くれたちが女王の下に馳せ参じ、当時無敵艦隊と呼ばれていたスペイン艦船を襲いまくったのですが、そうした一人であるヘンリー・モーガンなどはチャールズ2世によってジャマイカの副総督に任命されたくらいです。
少し余談になりますが、世界史に記録されている最初の世界周航者がポルトガル人のフェルジナンド・マゼラン(フェルナン・デ・マガリャンイス)であることは誰もが知っています。しかし、2番目がドレーク、3番目がキャベンディッシュであることを知る日本人は意外に少ないようです(西ヨーロッパでは誰でも知っている話ですが)。そして、1580年代に行われたキャベンディッシュの世界周航航海にクリストパーとコスムスという洗礼名を持つ二人の日本人が乗っていたという話になると、ますます知られてはいないのですが、どういう経緯で彼らが日本を飛び出し、海賊の一味に加わって世界の海を巡ることになったのか、僕はとても興味を持っています。
こうした私掠船の活躍によって海国イギリスの礎が築かれていったことを思うと、ヨーロッパ史における海賊の存在は決して小さくないのですが、18世紀に入ってユトレヒト条約が締結されると、ヨーロッパ諸国の間で私掠船による海賊行為は厳禁されるようになります。『パイレーツ・オブ・カリビアン』の舞台となるジャマイカのポート・ロイヤルは17世紀半ばにイギリスの私掠船団がスペインから奪い取り、その後は海賊の巣窟となっていたところですが、映画の中ではイギリス本国から派遣された総督の下、海軍がその要塞を守っており、既に海賊たちは海軍から追われる身として描かれていますので、この映画の時代背景は18世紀ということになります。
映画のストーリーについてここで書くのは、これから観ようと思っている人たちへの裏切りになってしまうので書きませんが、とにかく格好良かったのはジョ二ー・デップが演じる伝説の海賊ジャック・スパロウです。海賊ジャックは偉大な航海者、海の男でありながら、口八丁手八丁の詐欺師的なところもあれば、怠惰でだらしないところもあるし、酒と女にも溺れやすい。また、目的遂行のためなら手段を選ばぬ強引なところもあるが、残忍なことを嫌うお人よしでもあり、仲間のことを思いやる心も強い。しかし、その本質は常に自分の足だけで立ち、真の自由を求め続ける孤高の男であり、彼の航海、彼の戦闘は常にそのために行われるものなのです。
勿論、ジャックの敵役となったジェフリー・ラッシュ演じるキャプテン・バルボッサや、二枚目ヒーローのオーランド・ブルーム演じるウィル・ターナー、キーラ・ナイトレイ演じるヒロイン役のエリザベス・スワンらも魅力的なのですが、この映画を輝かせているのは間違いなくジョ二ー・デップの海賊ジャックでしょう。そして、オーランド・ブルームやキーラ・ナイトレイは、ジョ二ー・デップが放つ不思議なオーラを受けることによって輝きを増していたように思えますので、こうした役者間の良い影響の与え合いを感じ取れるという点においても、この映画は観る人の心に爽やかな印象を残します。
ところで、この映画のヒロインである総督の娘エリザベス・スワンは、身分の違いを乗り越えて有名な海賊の一人息子で刀鍛冶のウィル・ターナーに恋をするのですが、海賊のイメージに「自由」を重ね合わせる勝気で冒険心に富んだ彼女の名前がエリザベスというのは、少し面白いです。今でもイングランドの男たちがジェントルマンの仮面を脱ぐと、マッチョでシンプルな荒っぽさや、毀誉褒貶を恐れず我が道を突き進む強引さと、目的のためには手段を選ばぬしたたかさが同時に顔を見せることがありますが、そんな中でも特にアクの強い男たちを好んで自分の周りに集めたのがエリザベス1世であり、そこにドレークをはじめとする私掠船員たちがいたことを思うと、エリザベス・スワンの中にもそうしたものへの憧れが引き継がれていたのかも知れませんね。これもまたイギリスの素顔の一つでしょう。
まだ『パイレーツ・オブ・カリビアン』をご覧になっていない方には、この映画を観て爽快な気分になることをお勧めします!
(無断での転載・引用はご遠慮ください)
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