拓海広志「『星の航海師』を読む」

 来年はハワイのカヌー「ホクレア」が日本にやって来ます。そこで今回は10年ほど前に書いた文章を再掲させていただきます。


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 星川淳さんの新著『星の航海師』が出版されました。映画『ガイア3』によって日本でも有名になったナイノア・トンプソンさんですが、彼に航海術を教えた人がサタワル島のマウ・ピアイルッグです(マウは偉大な航海者に対する敬称)。そして、僕たちがヤップ島でシングル・アウトリガー・カヌーを建造し、それでパラオ諸島まで渡った後、そこにある結晶石灰岩で石貨を作ってヤップまで持ち帰るというプロジェクトを実現した時に、僕たちのカヌー「ムソウマル」の船長を務めてくれたのもマウなのです。


 ナイノアの偉大なところは、単に実験的に古代航海をやるというのではなく、この航海を通じてハワイの伝統文化を新しい文脈の中で蘇生させるという社会運動を起こし、それをより普遍性のあるエコロジー運動にまで発展させていったところにあります。もちろん、彼の運動を支援するハワイ大学、ビショップ博物館、アメリカ政府などの懐の深さも素晴らしいものだと思います。僕はナイノアには一度しか会ったことがないのですが、小柄ながら引き締まった体躯と、強い意志を秘めた瞳が印象的な人でした。


 ナイノアあるいはホクレア号の航海についてはアメリカで幾つかの本が出ていますが、今のところ邦訳されているのはハンク・ウェスルマンさんの『スピリチュアル・ウォーカー』くらいで、他には池澤夏樹さんの『ハワイイ紀行』の中で少しふれられているくらいでした。従い、この度星川さんによって『星の航海師』という本が出ると聞いて、僕も楽しみにしていたのです。


 ちなみに、星川さんは屋久島に住みながら日本のディープ・エコロジー運動をリードしてきた方です。最近星川さんは僕の関心領域であるモンゴロイドの移住というテーマでも本を書いており、僕は屋久島で星川さんの家に泊めていただいた際に、その話題で語り明かしたことがあります。今後の星川さんの著作が楽しみです。


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(無断での転載・引用はご遠慮ください)


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