拓海広志「『こころの湯』を観る」

 北京の下町胡同で銭湯を営む父。父を助けて働く知的障害者の次男。深圳でビジネスに成功しながらも、家族との距離が遠くなってしまった長男。


 亡くなった母の出身地は水を得ることが困難な西域であり、彼女が抱いていた沐浴への憧憬が彼らの銭湯への思いに微妙な影響を与えているようです。


 銭湯に集う近所の常連たちにとって、そこは共に生きるコミュニティの仲間たちが心を通わせる大切な場でしたが、街の再開発のために人々は転居を余儀なくされ、銭湯も取り壊されることになります。


 そんな中で銭湯と地域を舞台に展開される数々の小さなドラマは、移り変わる北京の街と人々の暮らし、人情を伝えます。そして、突如訪れた父の死…。


 たぶん世界中で似たようなドラマは展開されているのでしょうが、それだけにとても普遍的で、多くの人の心に染み入る映画です。


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 ちなみに胡同という語は北京では路地、横丁を意味し、その多くは元、明、清の時代に紫禁城の周りに形成された城下町の名残です。


 現在でも北京市の人口のうち七分の一は胡同に住むと言われていますが、その生活の不便さを嫌って若い人たちはマンションなどに移っており、胡同地域の再開発が進んでいます。


 一方ではそんな胡同の一部を保存して観光地とする動きも高まってきており、激しい近代化の中で失われていくものを懐かしむ北京っ子の心情がうかがえます。


(無断での転載・引用はご遠慮ください)



【北京の胡同で見つけた銭湯】


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