拓海広志「『カルトか宗教か』を読む」

 以前から僕が気になっていたことの中に、「癒し」や「健康」、「自己発見」や「自己開発」といった一見穏やかで素晴らしいことを声高にアピールする社会的風潮があります。勿論、これらは僕たちが普通に人生を歩んでいく上で必要なものばかりですし、それ自体を否定する理由は何もありません。しかし、それらを喧伝するやり方が少しでも独善的、排他的、強迫的、倒錯的な色を帯びてきたり、あるいはそうしたものに過度に依存する人が出てきた場合は、その背景に何があるのかを真剣に考えざるをえないと思うのです。


 こうした緩やかなように見えて、強い影響力を持つムーブメントが先進国を中心に世界中に拡がってきた背景にはグローバリズムの進展によって急速に変化する世界に対する人々の不安感もあるのでしょうが、実はこうした風潮を利用した「健康カルト」もそこここに溢れているのが現状です。その多くは決して宗教という形態は取っておらず、純然たる企業やNGOであったり、「○○セラピー」と称して治療行為や心身の修養活動を行っている場合もあります。それらの多くがそれ自体は何ら問題のないものであるだけに、その本質を見極めるのはそう容易ではありません。


 竹下節子さんの『カルトか宗教か』はこうした問題について警鐘を鳴らす良書だと思います。日本社会がオウム真理教を生み出したことや、その活動が長い間放置されていた背景に、こうした「健康カルト」の広い範囲への影響があることを指摘する竹下さんの説明はとてもわかりやすいのですが、竹下さんはパリ大学の高等研究所でカトリック史、エゾテリズム史を学んだあと、パリでアーティスト支援の文化協会を主宰して活躍されている方です。数々のカルトが台頭しながらもそれらを咀嚼、消化してきたフランスで暮らしてきたことが彼女の知性を大人のそれとしたのではないかと思え、是非一読をお勧めしたい一冊です。


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