拓海広志「続々・神戸大学にて・・・」

 一昨年、昨年に続いて、今年も神戸大学キャリアセンターの依頼で、同大学全学部1〜2年生の希望者を対象に「職業と学び−キャリアデザインを考える」というテーマの授業を行いました。


 一昨年の授業は「モノを運ぶことは、心を運ぶこと−国際物流と貿易の仕事、そしてNPO活動を通して」というタイトルで、僕の海との付き合い方と旅の話、貿易・国際物流・ロジスティクス・SCMと仕事の話、国際・民際交流や環境活動支援などのNPO活動の話、僕がかつて「アルバトロスクラブ」というNPOにおいて実現した「ミクロネシアの伝統的帆走カヌーによるヤップ〜パラオ間の石貨交易航海再現プロジェクト」の話、異文化コミュニケーションとMulti Cultural Managementの話、神戸が持つコスモポリタンな文化土壌の話などをネタにしながら、学生たちとの対話形式で進めました。


 また、昨年の授業は「越境するモノたち―物流におけるグローバル化」というタイトルで、モノの調達、製造、販売のグローバル化が加速する中で、そのSCMとロジスティクスの現場がどうなっているのかといったことや、ビジネスコミュニケーションのあり方について、やはり学生たちとの対話形式で進めました。


 そして、今年は「価値を生み出す仕事とは?」というタイトルの授業となりました。僕は、まずバリュー・チェーン、バリュー・プロポジション、またカスタマーエクスペリエンスの考え方の基本を学生たちに説明した上で、仕事の連鎖の中でどうすれば「価値」を生み出すことができるのか、最高の価値である「信頼」をどのように築いていくのかについて、今回も学生たちとの対話形式で進めてみました。

 
 毎回、この授業に参加する学生たちは非常に熱心で、授業中もなかなか積極的に発言や質問をしてくれますが、授業後も個別に僕に質問をしてくる学生たちが多くて1時間以上もつかまってしまいます。さらにその後も質問のメールを送ってきてくれたり、もっと詳しい話を聞くためにわざわざ僕に会いに来る学生も何人かいたりして、僕は神戸大学の学生たちがとても好きになりました。そこで、前々回、前回と同様に、受講してくれた学生諸君のレポートから幾つか抜粋し、紹介してみようと思います(複数の方のコメントを一つにまとめたものもあります)。


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※Aさん「私は、仕事とはハラスメントに耐えながら組織に同調していくものだと思い込んでいました。拓海さんから、仕事とは人生の貴重な一部であり、自分自身を磨くと共に、社会と自分を結びつける重要なものだと聞いて、前向きな気持ちになれました」


※Bさん「価値を生み出すという視点から、仕事について考えることが出来たのは新鮮でした。相手の暗黙のニーズを引き出して、それに応えていくことの重要性と、そのために必要なコミュニケーション・スキルについて理解することができました」


※Cさん「『人財』とは、仕事を通してお客様や仲間、社会に価値を提供でき、かつ仕事を通して自分自身の人生を価値あるものにできる人のことだというお話をうかがい、他者のことを真剣に考えて価値提供していくことで自分も成長できるのだと思いました」


※Dさん「企業がお客様に提供する「価値」の土台は「商品(Product)」の「品質(Quality)」と「価格(Price)」であり、そこがダメだとそもそも話にならないが、実際は企業の差別化の多くの部分は「サービス(Service)」によってなされている。サービスには幾つかの階層があるが、そこで最も高いレベルにあるのがお客様の経営課題に応えていく「ソリューション(Solution)」であり、そうした「価値」の頂点に「信頼(Trust)」があるのだというお話、また適切な「サービス」、「ソリューション」を提供するために必要となる「Outside-in」のモノの見方についてのお話に感銘を受けました」


※Eさん「具体的な事例を基に、サービスを提供する企業の立場になって考えたり、サービスを受けるお客様の立場になって考えたりということを、皆で討議しながら進めていくという講義のやり方は、とても刺激的でわかりやすかったです」


※Fさん「サービス・エクセレンスの図で、サービスを階層化して「お客様の期待内のサービス」と「お客様の期待を上回るサービス」に分けておられましたが、凄く納得できる図でした」


※Gさん「私はテニスコーチのアルバイトをやっています。コーチという立場を勘違いして一方的にアドバイスをするのではなく、相手の立場に立って物事を考えながら、相手のニーズを引き出していくこと。またそのニーズに応えるために相手と一緒に考えていくことの重要性について、今日の授業で気づきました」


※Hさん「今回の講義は、対話を重視されたもので大変緊張感がありました。拓海さんのやり方は、対話の中で学生たちに気づかせ、一方で学生の回答から拓海さんも大いに感心されることもあり、私にとってそれはソクラテスのやり方を想起させるものでした。相手のニーズを引き出すための質問技法としてのSPINや、価値提案する際に必要なFAB、また様々なコミュニケーションスキルについてお話をしていただきましたが、この講義そのものがそれらの実演であるように思えました」


※Iさん「今日の話は、企業に就職してから必要になるだけではなく、私たちの普段の生活や仕事以外の場面においてもすぐに役立つものだと思いました。私は、他人から見て魅力的な人になりたいと、思っています。自分の立場から考えると、「難しい資格を取る」「高収入を得る」「スポーツができる」「お洒落ができる」といったことが魅力的な人の条件になりますが、相手の立場から見るとそんなことが重要なのではない。そんな、ごく当たり前のことにも思い至りました」


※Jさん「サービス・エクセレンスの中で、「パーソナルタッチ」の重要性についてお話をされていましたが、私もコンビニなどでのアルバイトを通してそのことを実感しています」


※Kさん「私は塾の講師のバイトをやっています。今までサービスを提供する立場から「相手から求められているであろうもの」をいつも仮定していましたが、今日の話を聞いて、それは「相手が求めているもの」ではないことを思い知りました。今日教わった手法を用いて、もっと深く相手の求めているものを理解したいと思います」


※Lさん「拓海さんが、仕事を含む自分の活動の全てが、自分を成長させてくれている。また、それらの活動は全て根底でつながっていて、それらを通して社会の役に立ちたいと話されたことが印象的でした。今日の講義は「価値を生み出す仕事」についてでしたが、お話を聞きながら「こういう人生にしたい」というところまで考えさせられる内容でした」


※Mさん「私にとって今回の講義は、単に仕事をどうやるべきかとか、どのようなキャリアデザインをすべきかといったことではなく、いかに生きるべきか、どのように他者(家族、友人、異性・・・)と付き合うべきかといった、幅広い方面で役に立つ内容でした」


※Nさん「長い時間、学生たちの興味を全く逸らすことなく惹きつけ続けるプレゼンテーション能力と、対話形式で学生たちをどんどん巻き込んでいくファシリテーション能力に感心しました。是非、参考にさせていただきます」


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 神戸大学学生の皆さん、ありがとうございました。いただいたご質問に対しては、可能な限り個別に回答をさせていただきたいと思います。また、機会があれば神戸の六甲台か深江浜でお会いしましょう!


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


ビジュアルでわかる船と海運のはなし

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