拓海広志「小笠原の母島にて・・・」
25年ぶりに小笠原諸島の父島、南島、母島を訪ねてみた。東京の竹芝桟橋から父島までは「おがさわら丸」(小笠原海運)で25時間半。父島から母島までは「ははじま丸」(伊豆諸島開発)で2時間。航海時間を大幅に減らせる可能性のあったTSL(テクノスーパーライナー)の就航計画が頓挫したため、小笠原は東京都に属していながら東京都心から遠い場所であり続けている。
今回の旅のメインの訪問先は母島だった。母島は、父島と比べてみても森と海の気が強く、僕は好きだ。母島ではウミガメ漁師・築舘宏文さんの宿に泊まり、築舘さんから小笠原の伝統であるアオウミガメ漁の話を聞いた。もちろん、小笠原ではウミガメの保護活動が熱心に行われており、漁はそれと矛盾せぬように厳しいルールの中で行われている。
僕はインドネシアの離島やミクロネシアなどでウミガメ料理を食べたことが何度かあるが、日本でも小笠原や八重山ではウミガメを食べることができる。小笠原のアオウミガメ漁は主として4月に行われるため、4月から5月の初めにかけては新亀の肉が食べられ、父島だとスーパーなどでも販売される。新亀だと刺身で食しても美味しい。
母島と父島ではウミガメの料理法も若干異なるそうで、築舘さんによると母島の方が煮込みやホルモン炒めであっても、父島の料理よりも臭みが少ないという。確かに、築舘さんの奥様が作ってくださったウミガメの煮込みは絶品だった。もっとも、僕が父島の「丸丈」という寿司屋で食べたウミガメ料理も臭みがなく、特に「カメのチャーシュー」は煮こごりのようで美味しかったが・・・。
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拓海広志「珍味をめぐる旅」
母島では「クラブノア母島」にもお世話になり、そのボートダイビングツアーなどに参加した。ダイビングポイントへ向かう途中にザトウクジラの母子と遭遇して、その豪快なブリーチングに感動したり、潜ったポイントでは体長1メートル前後のイソマグロの群れを見たりした。ちなみに、クラブノア母島ではウミガメの保護事業もやっている。
僕は、クラブノア代表の松田猛司さんと一緒にシンポジウムをやったり、同グループメンバーでアルバトロスクラブ・メンバーでもある森拓也さんと懇意にさせていただいていたりと、クラブノアグループとの縁が少なくない。クラブノアグループの運営形態はエコツーリズムの新たなスタイルとして注目に値するものであり、僕も『島のエコツーリズム』という小文の中で紹介させていただいたことがある。
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拓海広志『島のエコツーリズム』
拓海広志「島とエコツーリズム(1)」
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父島から竹芝へ向かう帰りの船の中で、作家のC.W.ニコルさんと偶然出会い、一緒に酒を飲んだ。僕はニコルさんとは様々な会合の場で過去に3回ほどお会いしているのだが、これまであまりゆっくりと話したことがなかったので、これはとても良い機会となった。僕らは日本の伝統捕鯨に関する話や、ニコルさんが小説『勇魚』を書くために滞在した太地の話などをした。
ニコルさんと僕の間で意見が一致したことの一つに、今日の小笠原はガラパゴス的に隔絶された自然の素晴らしさだけが強調されているが、仮にその歴史が浅いものだとしても、欧米諸国やポリネシア、ミクロネシア、また日本本土や伊豆諸島とのつながりの中で形作られてきた島の独特の文化についても、もっと外部にアピールした方がよいのではないかということがあった。
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拓海広志『イルカ☆My Love』
ちょうど母島に滞在していたときに、小笠原が世界自然遺産になることがほぼ決まったという報を僕は受けた。これによって、小笠原の島々を訪れる観光客の数はこれから増えることだろう。僕も次回はもっと長期間滞在をして、小笠原の文化と自然により深く触れてみたいと思っている。
(無断での転載・引用はご遠慮ください)
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