拓海広志「神戸大学にて・・・」

 10月28日に神戸大学で授業をしましたので、その話を書いてみようと思います。この授業は神戸大学全学共通キャリア科目(総合科目Ⅱ)「職業と学び−キャリアデザインを考える」として企画されたもので、僕の授業のタイトルは「モノを運ぶことは、心を運ぶこと−国際物流と貿易の仕事、そしてNPO活動を通して」でした。


 今回の授業は、僕の海との付き合い方と旅の話、貿易・国際物流・ロジスティクス・SCMと仕事の話、国際・民際交流や環境活動支援などのNPO活動の話、僕がかつてアルバトロスクラブにて実現した「ミクロネシアの伝統的帆走カヌーによるヤップ〜パラオ間の石貨交易航海再現プロジェクト」の話、異文化コミュニケーションとMulti Cultural Managementの話、神戸が持つコスモポリタンな文化土壌の話などをネタにしながら、学生たちとの対話形式で進めました。


 受講してくれたのは様々な学部・学科の1−3年生約100名でしたが、授業後も15名ほどの学生が教室に残って個別に質問に来るなど、皆さんの熱心さには感心しました。その後も何人かの学生からメールで授業への感想や質問が寄せられたり、もっと話が聞きたいからとわざわざ会いに来てくださる方もいて、そうした対話を通して僕自身も初心に戻れたような思いがします。ここでは、受講してくれた学生諸君のレポートから幾つか抜粋し、紹介してみようと思います(複数の方のコメントを一つにまとめたものもあります)。


   *   *   *   *   *


※Aさん「最も印象に残ったのは、『企業にせよNPOにせよ、組織で働いていくためにはコミュニケーションが重要だ』という話でした。『効果的なコミュニケーションをするためには、相手を知る努力をしなければならない』と言われてハッとしました。『有能な営業マンは相手の話を聴くのに7割、自分が話すのに3割の時間配分で顧客と対話を行い、相手が本当に求めるものを深く理解した上で、相手の期待を超えるものを提供することによって顧客の心をつかむ』という話には納得しました」


※Bさん「拓海さんは自分そのものを仕事にしている人だと思いました。そんな人間になるためには大学時代をどう生きればいいのだろうか? この授業時間内で私が出した答えは、まず『自分が興味のあるものを、トコトン追求すること』。次に『出会う人々の話をしっかりと聴き、深く理解すること』。そして『自分自身の頭で熟考すること』でした。また、『失敗を恐れずに常に挑戦をして、その失敗から学び続けることの大切さ』に気づいた授業でした」


※Cさん「『頭から熱が出て汗をかくくらい、考えに考え抜いてやり遂げた仕事は、後から振り返っても良い仕事だったと思える』という話を聞いて、自分もそれくらい打ち込める仕事が欲しいと思いました。『仕事は趣味だ』と思えるくらい愛せて、楽しめるのは素晴らしいことだと思います」


※Dさん「仕事というのは、単にお金を稼ぐためのものではなく、仕事を通して内なる自己を見つめ、自分の才能を最大限に活かすことで、社会において自分という存在を確立していくものだと気づいた授業でした。『仕事を成功させるためには、<あれもこれも>ではなく、深く考え抜いた末に<あれかこれか>に絞り込める段階まで持っていくこと』。また『守りに入るのではなく、リスク覚悟で変化に対応していくこと』。私もこれらのことを意識しながら、自分の時間を生き抜きたいです」


※Eさん「自分にとって、働く意味を考えることはとても難しい課題でした。しかし、拓海さんが『仕事を通して自分を深めることと、広げることが大切だ』、『生きるか死ぬかのレベルで仕事を選択せざるを得ないほど厳しい環境下にいないのであれば、仕事は人生を豊かにしていく趣味のようなものだ』と言われるのを聞いて、自分の視野が大きく拡がりました」


※Fさん「『迷ったら前に出る』という言葉に惹かれました。自分の知らない世界、今までいたところとは異なる環境に、自らの意志で身を投じていき、そこで学んでいきたい。何も行動せずに悩むのではなく、行動を起こしてから悩みたい。また、自分自身に変化を起こすことで、ぶち当たった壁や悩みを克服したい。この授業は、そんなことを自分の心に留める時間となりました」


※Gさん「『お金=物語(共同幻想)』という見方を知ることができました。ヤップ〜パラオ間の石貨交易航海再現プロジェクトを通して、拓海さんたちが伝統的なコミュニティとの困難なコミュニケーションを粘り強く行ったという話が興味深かったです。カヌーのキャプテンを務めた英雄とも言える離島出身のマウ・ピアイルッグさんが、ヤップ本島では差別的な扱いを受けることもあったという話に伝統的コミュニティで生きていくことの難しさも感じました」


※Hさん「物流の仕事というのは地味なものだと思っていましたが、単にモノを運んだり保管したりするだけではなく、『ビジネスの全体的な仕組みを最適化するためにロジスティクスがある』という話を拓海さんからお聞きして、物流という仕事のイメージが大きく変わりました」


※Iさん「アメリカからの援助のおかげで、働かなくても暮らせるようになった楽園ミクロネシアなのに、自殺率が高いという話を聞きました。それで感じたことは、人は満たされない中で努力し、その努力こそが生きがいになっていくのではないかということです。仕事にせよ、それ以外の活動にせよ、後から振り返ってみて『精一杯やれたから、楽しかった』と思えることが大切なのだと思います」


※Jさん「『伝統文化が色濃く残る小さなヤップ島にも、人々には多様なモノの考え方があり、そのコミュニティ内には不一致や確執があり、一見平和そうに見える風景にも社会的問題が隠されていた。そうした中で、5年という歳月を掛けて、人々とゆっくりコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めることで得たものは多く、それが他の仕事にも役に立っている』という拓海さんの話は大変参考になりました」


※Kさん「『迷ったら前に出る』という言葉が印象に残りました。『職場は人生の道場みたいなもので、仕事においては常に少しでも難しい課題に挑み続けることが大切。転職も、より困難で新しいチャレンジに立ち向かうためにすべきものだ』という考え方には頷かされました。私は、同じ後悔をするならば、何もせずにするよりも、何かをやって後悔する方がいいです。自ら困難なチャレンジを求め、自分の成長の機会を増やしていきたいです」


※Lさん「『コミュニケーションは、相手の状況、問題、価値観、感情、願望、意志などを聴き出して、理解することから始まる』と拓海さんから言われ、これまで自分の意志をうまく伝えることだけがコミュニケーションだと思い込んでいた私はハッとしました。また、『自分が関わることで相手が変わり、相手と関わることで自分が変わることにコミュニケーションの持つ力がある』という話を聞き、視界が大きく開けた気がします」


※Mさん「『ロジスティクスとは、企業全体、サプライチェーン全体におけるモノの流れと在庫を最適化し、経営全体における物流の<有効性>を追求するもの』であり、それに対して『かつての物流管理では、個々の物流プロセスごとの<効率性>を求めていた』というお話でしたが、後者の<効率性>との対比としての、前者の<有効性>の意味が十分わかりませんでしたので、もう一度教えてください」


※Nさん「これまで私は『キャリア』という言葉から、エリート、履歴、お金、地位、出世、名誉といった言葉を連想していました。しかし、拓海さんの話を聞いて、キャリアデザインとは、その人自身の生き方を設計することであり、individualityの確立こそが大切なのだと感じました。私も自分自身の理念を軸にしたキャリアデザインをしていきたいと思います」


※Oさん「拓海さんは、『企業での仕事だけではなく、NPOでの活動や、個人的な活動を通して多くのものを得た』と言われていました。私も様々な国・地域・状況に身を置いて、多様な価値観を持つ人々と共働することで、自分の幅を広げていきたいと思いました」


※Pさん「質問です。(1)会社での上司と部下の関係は密な方がいいのでしょうか? それとも希薄な方がいいのでしょうか? (2)未開の貨幣経済を持たない民族に貨幣経済を浸透させようとした場合、どれほどの年月がかかると推測されますか? あるいは、それは不可能ですか? (3)経営に必要な管理能力は、仕事の中で身につける以外に方法はないのでしょうか?」


※Qさん「『就職する企業を選ぶ際に重要なのは、企業のサイズや知名度ではない。よく見なければいけないのは、その企業が持つ文化であり、経営者のモノの考え方や経営の手法であり、その企業で働いている人たちの意識レベルが自分と合うかどうかだ』という話を聞いて、非常に参考になりました。また、『食べていくためだけならばもっと楽な仕事でもいいのに、敢えて難しい仕事を選ぶのは、それを通して少しでも人生を豊かにするため』という考え方には納得させられました」


※Rさん「拓海さんが高校〜大学の頃にあまり学校へ行かずに、日本と世界の各地を旅していたという話は、私にとって衝撃的でした。旅を通して様々な人、生活、文化と出会い、多様な価値観を受け入れる精神的な土壌、他人に対する柔軟な姿勢や感性を培ってこられたのですね。学生時代にされた旅の話も、もっと詳しく聞きたかったです」


※Sさん「ヤップ島での伝統航海再現プロジェクトを精力的に推進しつつ、伝統文化を守ることの意味と矛盾について深く討議する場を設けたり、仮にヤップの人々の意思でプロジェクトが頓挫するような事態となったとしてもそれを前向きに受け入れる姿勢を明確に打ち出したり、イベントの高揚感の背後に潜む反発や冷淡、伝統社会の中に残る差別などを目の当たりにしても、『ゆっくりと議論や対話を続けることで社会は変わる』と信じていた拓海さんの姿勢に共感しました」


※Tさん「世界中を回ってきた拓海さんが、『日本はかなり多様性に富んでいて、実に面白い国だ』と言うのを聞いて、とても嬉しく思いました。私はまだ日本のことしか知りませんが、いずれは拓海さんのように世界各地で様々な経験を積みながら、日本を見つめなおしてみたいと思います」


※Uさん「『人の考え方は多種多様だが、他者との議論や対話を重ねる中で個々人の考え方も熟成してくる』、『やっている時は少々辛くても、やり終えた後に楽しかったと思える仕事こそがやりがいのある仕事だ』、『交易の原点とは<未知の世界への憧れ>と<モノを介しての異文化交流>にある』といった拓海さんの言葉に感銘を受けました」


※Vさん「様々なジャンルにわたる、多様な体験に基づくお話だけに、拓海さんの言葉には、実感を持って全身で語っているというRealityを強く感じました。拓海さんの言葉の選び方は、どれも繊細かつ大胆であり、私も深く考え抜くことと、自分で実際に体験することによって、そうした語り方ができるようになりたいです」


※Wさん「拓海さんの話から、『Think Globally、Act Locally』の体現の仕方についてのヒントを得ました。また、私はお話を聞いていて、Multi Cultural Managementを行っているグローバル企業での、マトリックスマネジメントのあり方に大変興味を持ちました。その内容や、仕事の大変さについてもっと詳しく教えてください」


※Xさん「ヤップの人たちにとっては誇りある伝統文化の復活となる石貨交易航海が、パラオ側から見れば侵略された歴史となること。しかし、拓海さんたちが双方との話し合いを続けたことで最終的には両者が和解し、ヤップとパラオの人々が力を合わせてプロジェクトを実現することが出来たというのは素晴らしいと思いました。これも時間を掛けながら、丁寧に対話を行った結果なのですね」 


   *   *   *   *   *


 学生の皆さん、ありがとうございました。いただいたご質問に対しては、可能な限り個別に回答をさせていただきたいと思います。また、機会があれば神戸の六甲台か深江浜でお会いしましょう!


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


ビジュアルでわかる船と海運のはなし

ビジュアルでわかる船と海運のはなし