拓海広志「キラキラの国の再生力(3)」
この文章は1993年にジャカルタで書かれたものです。
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今年(1993年)の6月に神戸の舞子と湘南の藤沢で「アジア夢幻」と題する座談会を催すために、ジャカルタから日本へ飛んだ。特に神戸の会合には冒険家のジョージ・ミーガンさんや民族学者の秋道智彌さん、またアジア通の鶴見良行さん、北窓時男さん、鈴木隆史さんといった面々が集ってくださったことで、大変有意義な語らいができた。しかし、この座談会を通して僕が痛感したのは、今のままでは日本は少し浮ついた国になってしまうのではないかということだった。
第一次産業に続いて第二次産業の現場の多くを海外に移転・依存した後、日本にはかつてほどラジカルな労働問題や環境問題はなくなったが、それはそうした問題をも日本が海外にヘッジしたことを意味している。現在アジアで進行する環境破壊の根底にはいわゆる南北問題がある。すなわち、「南側では開発による経済発展を図ろうとして国際経済市場に取り込まれて資源を切り売りし、それによって環境が破壊されて人々の生存が脅かされるばかりか経済発展の基礎まで掘り崩され、北側諸国や多国籍企業などと結びついた南側の一部のパワーエリートのみが豊かになる」という構図だ。
この構図において日本の責任は決して小さくない。村井吉敬さんは「相手の立場に立った企業進出というようなものはもともと幻想なのかも知れない」(『小さな民からの発想』)と語っているが、企業活動のグローバル化、ボーダーレス化は避けようがないからこそ企業倫理が求められているのだし、豊かな消費生活を享受している日本人はもっと自分の足下を見つめる必要があるのだろう。
ところで、一連の著作を通じてアジアと日本の関係を語ってこられた鶴見良行さんの同志的存在にジャカルタ在住の中島保男さんがいる。中島さんはジャカルタで印刷会社を経営していらっしゃるのだが、他方では「インドネシアの海の遊び人」を自称してインドネシア各地の海を訪ねておられる。また、中島さんと奥様の温かい人柄と広範な知識、そして多彩な人脈によって、氏のお宅は海、文学、アジアを愛する人々のサロンのようになっており、僕は図々しくもその場をお借りして様々な人的交流イベントを催させていただいているのだ・・・。
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