拓海広志「キラキラ料理帖(8)」

 ここでは僕がかつてインドネシアの友人のお母さんたちから教わったインドネシア料理のレシピを、ちょっとしたエピソードを交えながらご紹介したいと思います。ただし、材料やスパイスの分量を明記していないのは、キラキラ(about)料理帖ならではのことと、お許しください(^^;;)。


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※「サテ・ウダンとトゥミス・カチャン・プンチス」

 インドネシアでエビと言えば村井吉敬さんの著書『エビと日本人』を思い出しますが、ジャワ島の北岸部などではマングローブ林を破壊した後にエビの養殖場を作るケースが少なくありません。エビを含む多くの魚介類が産卵、孵化する場所がマングローブ林の中であることを考えると、これはあまり賢明なこととは思えないのですが、エビを大量に輸入・消費している日本人は産地の自然環境や人々の暮らしについても真剣に考えるべきでしょう。

 インドネシア人は日本人ほど多くのエビは消費しておらず、彼らが大好きなサテ(sate:串焼き)の材料となるのも通常は鶏(ayam)や山羊(kambing)なのですが、ここではあえてエビ(udang)を使ったサテをご紹介しましょう。

1)エビ(ブラックタイガーもしくはブルータイガー)の皮を剥いてから、塩と酢でもみ洗いする。その後、背中から包丁を入れて筋を取り、背開きにする。

2)スライスした赤タマネギ(bawang merah)と塩、ケチャップ・マニス(kecap manis)を上記(1)のエビにまぶす。

3)エビが十分ソースに漬かったら横に半分に切り、串に刺す。

4)串に刺したエビを網にのせ、炭火で焼く。

 最近はスマトラ島などに備長炭作りの技術が伝わり、ウバメガシならぬマングローブを使った炭が作られるようになっています。本物の備長炭にはかないませんが、マングローブ炭も結構いけるので(日本にも輸入されている)、家庭で気軽に使うには良いと思います。

5)サテが焼けたら、サンバル・オレンジ(jeruk sambal)を搾る。

 続けて、ごく一般的な野菜炒めの作り方をご紹介しましょう(ここではインゲン豆(kacang buncis)を使ってみた)。もっとも、これは僕がいつも言うことなのですが、現在のインドネシア料理は、豊かな食文化を持ち、インドネシア各地で食堂や雑貨屋などを営む華人たちによるアレンジが加わったものとなっており、僕がここでずっと紹介してきた料理の数々も決して例外ではありません。

1)インゲン豆(kacang buncis)を適当な長さに刻む。

2)赤タマネギ(bawang merah)とニンニク(bawang putih)を細かく刻んでからフライパンで炒める(先に赤タマネギから炒めること)。

3)そこに生卵を落としてかきまぜた後、インゲン豆を入れ、塩を振り掛ける。

4)水を少し加える。


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※「エス・チェンドル」

 インドネシア料理の紹介にそろそろ飽きた方もいらっしゃるでしょうから、今回はごく手軽に出来るデザート「エス・チェンドル(es cendol)をご紹介して、このシリーズはいったん終わりにしましょう。

1)チェンドル(cendol:米粉とサゴ椰子の乳汁を凝固させたもの)を水洗いする。

2)鍋に少量の水を入れて加熱し、そこにジャワ砂糖(gula java)を放り込んで溶かす。

3)ココ椰子の胚乳を削ったもの(kelapa parut)に水を含ませて、その搾り汁(santan:ココナッツミルク)を作り鍋に注ぐ。その際に普通の砂糖(gula)も加える。

4)上記の(1)(2)を冷蔵庫でよく冷やし、それらを混ぜ合わせたものにかき氷(es)を掛けて食べる。


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 このコーナーでご紹介してきたのは、僕がジャカルタに住んでいた頃に、地元の主婦たちから教わった料理の数々です。最近は日本でも美味しいインドネシア料理を食べさせる店が増えてきているようで喜ばしいのですが、「食べる」という行為はただ単に「美味しい」とか「不味い」ということだけではなく、その背景にある人々の暮らしや、自然との付き合い方を学ぶことだと思うので、日本のインドネシア料理店がそういう工夫をさりげなくしてくれると嬉しいですね。


インドネシア料理に関する本

 料理研究家坂本廣子さんにご指摘いただいたように、僕のレシピは文化誌的な趣が強くて、実際に料理する際のマニュアルとして不可欠な調味料の量や加熱する際の火加減、時間などが全く記載されていません。そこで、実際にインドネシア料理を作ってみようと考えておられる方のために、少し参考文献をご紹介しておく義務を感じています。とりあえずここでは、下記の本を紹介させてください。

・Sri Owen『Indonesian Regional Food & Cookery』
・Henry Runtuwene『Masakan Nusantara』
・Suryatini N.Ganie『Pesisiran Food』
・Juliet Choo『Cook Indonesian』
・Heinz von Holzen & Lother Arsana『The Foods of Indonesia』
・Heinz von Holzen & Lother Arsana『The Foods of Bali』
・Kaarin Wall『A Jakarta Market』
・Bon Ton Restaurant & Jonkers Restaurant『The Food of Malaysia』
・Carol Selvarajah『The Best of Asian Seafood』
吉田よし子『熱帯の野菜』
吉田よし子『熱帯アジア14ヵ国の家庭料理』
・星野達夫&森枝卓士『食は東南アジアにあり』
・前川健一『東南アジアの日常茶飯』
・増田妙『おいしいBALI』
・大村次郷『アジア食文化の旅』
・向山昌子『アジアごはん紀行』
石毛直道&ケネス・ラドル『魚醤とナレズシの研究』
・梁超華『アジア・エスニック料理』

 上記の文献の中で、実際に料理を作るために必要な1冊をということであれば、僕は迷うことなくスリ・オウェン氏の好著『Indonesian Regional Food & Cookery』をお薦めしたいです。この1冊で主な料理はカバーしているし、食文化全般に対する目配りも出来ているので、インドネシアの食文化に興味のある方は一度読んでみてはどうでしょうか。


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


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エビと日本人 (岩波新書)

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魚醤とナレズシの研究―モンスーン・アジアの食事文化

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