拓海広志「キラキラ料理帖(6)」

 ここでは僕がかつてインドネシアの友人のお母さんたちから教わったインドネシア料理のレシピを、ちょっとしたエピソードを交えながらご紹介したいと思います。ただし、材料やスパイスの分量を明記していないのは、キラキラ(about)料理帖ならではのことと、お許しください(^^;;)。


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※「アガル・アガル・スリカヤとエス・セラシ」

 前回はクタン・ブブル・クアー・ドゥリアン(ketan bubur kuah durian)をご紹介したのですが、今回はもっと簡単に出来るデザート・メニューを二つご紹介します。まずは、アガル・アガル・スリカヤ(agar-agar srikaya)です。

1)ココ椰子の胚乳を削ったもの(kelapa parut)に水を含ませ、その搾り汁(santan:ココナッツミルク)を作る。

2)ジャワ砂糖(gula java)を砕いてから鍋に入れ、水を加えて煮る。砂糖が溶けてきたら火を止め、煮汁を茶漉しで濾過してからボールに移す。

3)そこに砂糖と塩を入れ、水を加えてからアガル・アガル(寒天)の粉を入れる。

4)それを鍋で加熱した後、カップに移してから冷まし、冷蔵庫で冷たくすれば出来上がり。

 スリカヤ(srikaya)というのは果物の一種なのですが、その果肉がゼリー状になっていることからの連想で、この菓子の名前がついたようです。続けてさらに簡単なエス・セラシ(es selasi)をご紹介します。

1)セラシ(selasi)の種(biji)を水に漬け、それが水を吸って膨らんでくるのを待つ。

2)セラシが十分膨らんだら、いったん笊に上げて水洗いする。

3)アガル・アガル(agar-agar)のパウダーと砂糖(gula)を湯で溶かしてから冷まし、ゼリーを作る。

4)上記(3)を小さく切って、上記(2)と混ぜ合わせてから冷蔵庫で冷やし、シロップをかければ出来上がり。

 セラシの種というのは乾燥した状態では黒胡麻のように見えますが、それに水を含ませるとカエル(kodok)の卵のような感じに膨らんできます。それを冷やしてから食べると食感が心地よく、手軽に出来るデザートとしてお勧めです。


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※「ナシ・ウドゥック」

 ナシ・ウドゥック(nasi uduk)のウドゥックを「uduk」と表記するのはジャカルタ語で、正式なインドネシア語では「wuduk」となります。ナシ・ウドゥックはココナッツミルクで炊いたご飯のことなのですが、ほんのり甘い香りがして美味しいです。

1)サンタン(santan:ココナッツミルク)を作り、そこに少し塩を加える。

2)米(belas)を研いでから上記(1)のサンタンを注ぎ、そこに月桂樹(salam)の葉とセライ(serai:レモングラス)を入れて炊く。

3)赤タマネギ(bawang merah)をスライスし、塩水で洗った後、油で揚げる。

4)フライパンで卵(telur)を焼き、細かく刻む。

5)炊きあがったご飯(nasi)に上記の(3)(4)を振り掛ければ出来上がり。


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※「アヤム・ゴレン・ブンブ・クニン」

 インドネシアで煮込み料理などを作る際にサンタン(ココナッツミルク)を使う理由は料理の味をまろやかにすることと、香辛料が肉や魚に浸透しやすくするためだと言われています。今回ご紹介するアヤム・ゴレン・ブンブ・クニン(ayam goreng bumbu kuning)もそうで、サンタンが香辛料の持ち味をうまく引き出してくれる料理です。

1)鶏(ayam)の骨付き腿肉(paha)を塩と酢でもみ洗いする。

2)ココ椰子の胚乳を削ったもの(kelap parut)に水を含ませ、その搾り汁(santan)を作る。

3)ククイノキ(kemiri)の実、ターメリック(kunyit)、赤タマネギをチョベックですりつぶす。

4)上記の(3)を多目の油で炒める。その際に月桂樹(salam)の葉とセライ(serai:レモングラス)も加える。

5)そこに鶏肉を放り込んでから、サンタンを少し注ぎ、砂糖、塩を加える。煮汁が完全になくなるまで煮続けること。

6)煮汁がなくなったら、油を注いで鶏肉を揚げる。

7)月桂樹の葉とセライを取り除いて出来上がり。

 ちょうど僕がジャカルタで料理修行をしていた頃に、料理研究家の面々がジャカルタにやって来られました。『香辛料の民族学』を書かれた吉田よし子さん、料理研究家坂本廣子さん、『明石海峡魚景色』を書かれた鷲尾圭司さん、豆研究家の小清水正美さん、名古屋の豆匠「豆福」の福谷正男さんといった面々です。

 僕は皆さんをジャカルタ市内の市場などにお連れして食材の買い出しを行い、大インドネシア料理大会を催したりもしました。その際に皆さんが一様に興味を示されたのは、料理毎に微妙に異なる香辛料の使い方(種類と量、またチョベックですりつぶすのか、あるいは包丁で刻むのか)でしたが、同時にサンタンの効果的な使い方に対しても非常に関心を示しておられました。

 市場でコプラを削ってもらい、それを使って作るサンタンの美味しさは、市販されている紙パック入りのココナッツミルクの比ではないので、東南アジアへ旅行する機会があれば是非試してみてください。


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※「ラウォン」

 東ジャワの料理はマドゥラの料理の影響を受けていて、肉や臓物の煮込み料理が多いのですが、ラウォン(rawon)はその代表格とも言えます。生のモヤシ(tauge)をたっぷり入れて食べるととても美味しい料理す。

1)クルアック(kluak)の実の堅殻を割って中身を取り出し、赤タマネギ、ニンニクと共にチョベックですりつぶす。

2)それらを多目の油で炒めるが、その際に月桂樹(salam)の葉(daun)を加える。

3)牛肉(daging sapi)の細切れをそこに加えて炒めた後、水を注いで煮込み、砂糖と塩を加える。

4)牛肉が柔らかくなるまでじっくり煮込んだら火を止め、生のモヤシ、クマンギ(kemangi:肉桂の一種)の葉、そしてネギ(daun bawang)を加える。


(無断での転載・引用はご遠慮ください)



鷲尾圭司さん(手前)と吉田よし子さん(真ん中)をジャカルタのサテ屋にご案内する】


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