拓海広志「キラキラ料理帖(1)」

 ここでは僕がかつてインドネシアの友人のお母さんたちから教わったインドネシア料理のレシピを、ちょっとしたエピソードを交えながらご紹介したいと思います。ただし、材料やスパイスの分量を明記していないのは、キラキラ(about)料理帖ならではのことと、お許しください(^^;;)。


   *   *   *   *   *   *   *


※「ガドガドとサンバル・カチャン」

 最初はごく一般的なメニューの一つ「ガドガド」です。インドネシアでは多様なものがごちゃごちゃと混じり合っている状態のことをガドガド(gado gado)と形容することがあるのですが、その語源となるのが今回紹介する温野菜サラダ「ガドガド」です。

1)卵(Telur)とジャガイモ(kentang)を茹でる。

2)豆腐(tahu putih cina)を油(minak sayur)で揚げる(goreng)。インドネシアの市場へ行くとターメリック(kunyit)で黄色く着色された豆腐(tohu kuning)なども並んでいますが、ここではあくまでも白豆腐を使いたいです。

3)モヤシ(tauge)、キャベツ(kol)、ナガササゲ(kacang panjang)、バヤム菜(bayam)などの野菜を別々に茹でる。ガドガドに使う野菜としてはこれらの野菜が一般的で、バヤム菜というのはホウレンソウの一種です。

4)クルプック(kerupuk)を揚げる(短時間でサッと揚げること)。クルプックとはエビ(udang)や魚(ikan)の粉と澱粉を混ぜて練ったものを茹でてから薄く切って乾燥させたもの。これを油で揚げると煎餅となり、ビールのつまみに最高!

5)卵、ジャガイモ、豆腐を適当な大きさに切り、茹で上がった野菜と共に皿に盛る。

6)その上にサンバル・カチャンを掛けて出来上がり。ちなみに、ガドガドにロントン(米をバナナの葉で包んで湯の中に入れ、1〜2時間茹でたもの)を添えた料理をロテック(lotek)と呼びます。

 以上がガドガドの作り方ですが、ガドガドの味の決め手は振り掛けるサンバル・カチャン(sambal kacang:ピーナッツ・ソース)です。次にサンバル・カチャンの作り方を紹介してみましょう。

1)落花生(kacang tanah)を油で揚げた後、チョベック(cobek)で細かくすりつぶす。チョベックとは唐辛子(cabe)やその他の香辛料をすりつぶすのに使う土製の皿のことで、中部ジャワがその伝統的な生産地として有名ですが、チョベックには魂が宿るというアニミズム的な民間信仰があり、それにふさわしくない人が使うとチョベックは割れてしまうとか、思い通りに調理が出来なくなるといったことが信じられています。ちなみに、インドネシア語で「すりつぶす」という時に使う表現には幾つかのものがありますが、チョベックですりつぶす際には「menumbuk」と言うのが適当でしょう。

2)乾燥小エビ(udang kering)を2〜3分ほど水に浸した後ですりつぶす(ここで使う乾燥小エビは塩味の薄いものであること)。

3)赤タマネギ(bawang merah)と種を取り除いた赤唐辛子(cabe merah meriting)に塩をまぶしながらチョベックですりつぶす。

4)上記の(2)(3)にトゥラシ(terasi:エビ醤)を加え、やや多めの油で炒める(tumis)。トゥラシとは小エビを挽き潰して塩をし、天日で乾かして煮、再び乾かしてから発酵させたもの。インドネシアでは様々な料理の隠し味としても使われています。

5)上記の(1)と(4)を混ぜ合わせ、砂糖(gula)、塩(garam)、酢(cuka)を加える。

6)熱湯(air panas)を加えた後、さらに砂糖、塩、酢で味を調整して出来上がり。

 ジャワやスンダではガドガドやサテ(sate:串焼き)用のピーナッツ・ソースには、油で揚げた落花生をすりつぶしたものに砂糖を加えただけの簡単なものを使うことが多いのですが、ここでは西スマトラ流のソースの作り方を記しました。

 スマトラは歴史的に見てマレー半島と同じ文化圏に属する地域なのですが、スマトラ地方の料理はマレー料理、中華料理、インド料理の影響を受けており、インドネシアの他の地方の料理よりもはるかに多彩で美味しいものが多いです。インドネシアの食文化は東へ行くほど単調・貧弱になっていくというのが、各地を旅してきた僕の率直な感想です。

 ちなみに、多様なものが混沌とした中で雑然と混じり合い、それにもかかわらず全体としては何となく調和が取れているという「ガドガド」状態は、僕にとっては理想的な社会のあり方です。やはり決め手はサンバル・カチャンかなぁ? 


   *   *   *   *   *   *   *


※「サンバル・トゥラシ」

 何を食べるのにも唐辛子のソース(sambal cabe)をつけるインドネシアの人たちですが、少し臭みがあるものの、やがてそれがたまらなく美味しくなり、次第に病みつきになってしまうのがサンバル・トゥラシ(sambal terasi)です。本当に美味しいものは、その都度きちんと作るしかないのですが、既製品の中で美味しいのは南スマトラのランプン産のもので、一般の商店でも「サンバル・ランプン」として別に売られています。

 スンダの田舎の食堂で、腹の中に回虫を数匹飼うことになる可能性を承知の上でララプ(lalap)と呼ばれる生野菜のサラダを食べると実にうまいのですが、その際にララプにつけるサンバル・トゥラシにはトマトをすりつぶしたものが入っていることも多いです(トマトによって辛みがやや緩和される)。

1)大きめの赤唐辛子(cabe merah besar)の種をきれいに取り除き、鷹の爪(cabe rawit hijau)と共にチョベックですりつぶす。

2)乾燥小エビ(udang kering)を2〜3分ほど水に浸した後、すりつぶす。なお、ここで使う乾燥小エビには塩味のついていないものを選ぶこと。

3)赤タマネギ(bawang merah)をチョベックですりつぶす。bawangは球根、タマネギを意味する語ですが、スパイスとしてよく使われる赤タマネギはbawang merah、ニンニクはbawang putihと呼ばれます。ちなみに普通のタマネギはbawang bombay、ネギはdaun bawangです。

4)トゥラシ(terasi)をやや多めの油で炒めた後、上記の(1)(2)(3)と混ぜ合わせ、砂糖、塩を一つまみ加える。ここでアジア人にとっての旨味成分であるグルタミン酸ナトリウムを化学的に精製したもの、すなわち味の素を加える人は少なくないですが、出来ればそれはなしにしたいです。

5)好みによってはサンバル・オレンジ(jeruk sambal)を加えてもよい。

 先ほどララプの話をしましたが、インドネシアでは野菜や果物を食べる際には少し気をつける必要があります。何故ならば、それらはしばしば性的な意味を持つケースがあるからです。例えば男性が茄子を食べ過ぎるとインポテンツになるといった具合で、僕も茄子を食べていてからかわれたことが何度かあります。


   *   *   *   *   *   *   *


※「エス・チャンプル」

 チャンプル(campur)というのは色々なものがごちゃごちゃと混じり合っている状態を指す言葉ですが、これこそが東南アジアにおける伝統的な世界観であり、僕自身が求める社会のあり方でもあるので、「チャンプル」と聞くと僕はそれだけで元気になってきます。沖縄でも「チャンプル」、日本でも「チャンポン」とは言いますが、やはり東南アジアの「チャンプル」の方がダイナミックなようです。

 今回は夕涼みがてらにブラリと立ち寄ったワルン(屋台店)で食べると格別美味しいエス・チャンプル(es campur)、すなわちミックスかき氷の作り方をご紹介します。旅の最中にアンボン、マカッサル、またマナドの海岸通りで食べたものが何故か未だに忘れられません。

1)パチャル・チナ(pacar cina:サゴ澱粉から作ったフレーバー)を茹でる。茹で上がったら、しっかりと水洗いする。

2)チンチャウの葉(daun cincau)で作ったゼリーを適当な大きさに刻む。日本ではこのゼリーは手に入りにくいので、何か別のもので代用するしかないですが、たとえば緑茶や紅茶のゼリーなんてどうでしょうか? 

3)タぺ(tape:キャッサバを茹でたもの)を適当な大きさに刻む。キャッサバはインドネシアではウビ・カユ(ubi kayu)あるいはシンコン(singkong)と呼ばれます。キャッサバから取った澱粉を天日あるいは火で乾燥させたものがタピオカ(tapioka)です。

4)アガル・アガル(agar-agar)のパウダーと少量の砂糖を水で溶いた後、鍋に入れて加熱します。沸騰したら火を止めてボールに移し、冷ましながら固まるのを待つ。固まったら適当な大きさに刻む。アガル・アガル(agar-agar)とはテングサないしはテングサから作った寒天のことですが、食用のみならず、練り歯磨粉の原料としても重宝されており、南スラウエシからは日本、台湾、韓国向けにも輸出されています。

5)ココ椰子の胚乳を削ったもの(kelapa parut)に水を含ませた後、その絞り汁を作り(santan)、少量の塩を加えて茹でます。それにジャワ砂糖(gula java)を加えてさらに茹でる。香りをつけたい時は、タコノ木(pandan)の葉を加えるとよい。ちなみに、サンタン(santan)とは、要するにココナッツ・ミルクのこと。ジャワ砂糖とはジャワの伝統的な赤砂糖(gula merah)のことで、サトウ椰子の樹液を煮詰めて作る。甘さはそれほど強くないが、独特のコクがあり、お菓子(kue)作りには重宝します。

6)上記(1)〜(4)を一緒に盛った後、かき氷(es)を掛け、その上から(5)とシロップを振り掛けると出来上がり。

7)これにナンカ(nangka)を加えるとエス・テレル(es teler)となる。

 料理研究家坂本廣子さんから、「拓海さんの作るレシピは簡潔でわかりやすいけれど、調味料などの分量がハッキリしないのが難点よ」とご指摘いただいたことがあるが、それは全くその通りです。とは言え、これは全て「キラキラの国」(キラキラとはインドネシア語でアバウトという意味)の料理帳なので、大体の感じで作ってみながら、適当な量をつかんでいただければと思う。無責任でゴメンなさい(笑)。


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


Link to AMAZON『地震の時の料理ワザ』

地震の時の料理ワザ―グラッと来てもあわてない!防災袋に必携!!電気が復旧するまでの1週間

地震の時の料理ワザ―グラッと来てもあわてない!防災袋に必携!!電気が復旧するまでの1週間

Link to AMAZON『村おこしは包丁のリズムにのって』