拓海広志「海と人と町をつなぐ」
アルバトロス・クラブの創立25周年とアルバトロス・プロジェクト(ミクロネシアの伝統的帆走カヌーによるヤップ〜パラオ間の石貨交易航海再現プロジェクト)の実現20周年を記念する「アルバトロス・イベント」が、2014年12月6日に神奈川県三浦半島の三崎港で開催されました。そのメインとなったのが、「海と人と町をつなぐ」というパネル・ディスカッション(パネラー:川口祐二、海上知明、小原朋尚、石川仁、高橋素晴、倉橋隆行、たかとりじゅん。ファシリテーター:拓海広志)です。
長年にわたって日本各地の浜を訪ね歩き、漁業者たちの仕事や暮らしについて多くの聞き書きを残してこられた川口祐二さんは、海の道によって繋がる人々の社会や文化のことを語ってくださいました。三浦半島や城ケ島も、そうした海の道によって房総半島や伊豆半島、また南紀や土佐などと繋がっており、そのことは三崎の町の形成において重要な意味を持っています。
環境思想研究家の海上知明さんは、日本の環境思想はその多様で変化に富む自然の影響を受けており、多様性と変化を容認する傾向が強いと語ってくださいました。また、古代から中世の日本において、政治的な思惑から奈良、京都、平泉、鎌倉などに都市が形成された中で、平清盛だけが全く異なる世界観から神戸という港市を築いたことの意義についても強調されました。
神戸をベースに帆船「みらいへ」を使った人材育成・開発事業に奮闘されている小原朋尚さんは、海でのチャレンジによる教育の可能性について語ってくださいました。また、日本の沿岸と漁場、漁港が漁業者によって利用・管理・保護されてきた歴史の功罪についてもお話しいただき、その今後のあり方について問題提起をされました。
カムナ葦船プロジェクトなどの様々な冒険プロジェクトを実現してきた石川仁さんは、海を渡って伝わった様々な文化のあり様について語ってくださいました。そうした文化交流は港・町という場があるから可能になるわけですが、かつて宮本常一さんが指摘した日本の町の成り立ちにおいて果たした海と漁民の役割も再考すべきテーマでしょう。
14歳にしてヨットでの太平洋単独横断を成し遂げ、今は坊津で「地球の塩」という名の塩を作っている高橋素晴さんは、人が海という自然を所有することへの疑問について語りました。また、日本の漁港がヨットなどのプレジャーボートの受け入れに対してもっと積極的になることによって、外部に対して開かれたものになっていく可能性について語ってくださいました。
不動産コンサルタント業を営みながら三崎の活性化の為に様々な活動を展開している倉橋隆行さんは、町の活性化を進める際に直面する経済的、文化的、技術的な課題について語ってくださいました。また、三崎は東京都心から遠くないのに多様な文化を持っていることが素晴らしいが、その土地の75%が未だに漁業・農業用地指定を受けていることは住民ニーズの現実と合っていないことについて問題提起されました。
フリーアナウンサーのたかとりじゅんさんは、独自のデート論で場を盛り上げてくださいました。じゅんさん曰く、「想定の範囲内のデートはつまらないが、海という場を用いたデートは常に意外性があって楽しい」とのことで、海は人の絆を強くするという素晴らしいオチでした!
パネラーの方々からは様々なお話を伺いましたが、ファシリテーターの私はそれらを三つのテーマに絞り直してその後の討議につなげました。一つ目は「海・港・町を介したヒト・モノ・文化の『交換』」というテーマ。次は「海の利用・管理・保護に関する『占有(なわばり)』と『共有(コモンズ)』」というテーマ。三つ目はアルバトロス・クラブが重視してきた「ヒトと自然とモノの関係性」というテーマです。それに際して、私が海という自然と人の関係性の象徴として「帆」と「アルバトロス(あほうどり)」にこだわってきた意味についても、改めて説明させていただきました。
多彩なパネラーの皆さんのおかげで議論は盛り上がりましたが、残念だったのは時間が足りなかったことです。特に「海の利用・管理・保護に関する『占有(なわばり)』と『共有(コモンズ)』」に関する議論にはもっと拡がりを持たせたかったのですが、時間的な制約からそれには至りませんでした。また、「ヒトと自然とモノの関係性」についての議論も不完全燃焼だったように思います。次の機会にはこれらの議論をさらに深掘りしていきたいと思います。
ところで、このイベントは第1部「三崎ヨットクルーズ」、第2部「パネル・ディスカッション『海と人と町をつなぐ』」、第3部「三崎散歩」、第4部「懇親会」という構成になっていたのですが、その模様は倉橋隆行さんとたかとりじゅんさんが出演されているJ:COMの番組『おとなの歩き方』の第40歩目にて紹介いただくことになりました。是非、ご覧ください!
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