拓海広志「環境思想と里山 : 海上知明さん」
畏友・海上知明さんが『新・環境思想論』という本を出された。海上さんは前著の『環境思想 歴史と体系』及び『環境戦略のすすめ』において環境思想の多くを体系的に分類し、それぞれの由来や論拠を整理すると共に、そうした様々な環境思想の対立を超えうる政策提言をもしてきた。環境思想の俯瞰図を描きあげたという面で海上さんの功績は大きく、僕も自分の考えを整理する上で海上さんの本をいつも参考にさせていただいている。
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拓海広志「『環境戦略のすすめ』に寄せて」
『新・環境思想論』は基本的に前2著の流れを汲むものだが、特に文化・文明論に多くを割いているという点と、海上さん自身の土浦での実践との関係で里山の問題に言及している点が興味深い。海上さんは、文明を「ある地域の文化から派生し、価値体系をともなって広範な地域を覆った経済システム」と定義し、現代文明とは「地下の鉱物資源を利用して画一的な大量生産を集中的に行うものであり、そのために生産と資源浪費、そして汚染は無限に拡大する傾向をもち、その製品を売り払うために世界全体を一つの枠組みに組み込んでいく」形を取ってきたと語る。
現代文明の根にヨーロッパの伝統的文化とも言える「自然克服」の考えがあるというのは多くの人が指摘してきたことだが、海上さんは現代文明の問題を解決するためには、精神的なレベルで自然克服思想を変革することと、システム的に産業革命構造を変革することが必要だと語り、より根本的な変革に向けては特に前者が重要だと指摘する。そして、守るべきものは様々な地方での文化であり、変えるべきものは現代文明というシステムだが、地方の文化が新しい文明となるためには、それが他の地域でも受け入れられるようにシステム化され、経済的優位性も示す必要があると言う。つまり、里山についてもこうした視点から見ていく必要があるわけだ。
僕はかつて海上さんに土浦の里山を案内していただいたことがあるのだが、本書にそのときのことが書かれているので、抜粋して引用させていただく。「そもそも太古より存在していたシステムが、「里山」という用語でいつ頃から呼ばれるようになったのかは諸説ある。私自身が初めて耳にしたのは十数年前の石弘之先生の講義のときであるから、平成年間の初期。再度耳にしたのは平成12年、「アルバトロスクラブ」という会で「環境思想の多様化」の講演を頼まれ、地元のある場所に案内したときで、その会の代表(当時)の拓海広志氏が「見事な里山」といわれたのを聞いたときである。見慣れた風景によせられた「里山」という言葉の新鮮な印象は、今もって鮮明である」。
海上さんは、日本において多くの里山が荒廃したのは、経済システムとして里山を維持することが困難になったからだと喝破した上で、今後の文明化を視野に入れて里山に普遍性を求めるとすれば、「自然から価値を得る思想」と「二元論ではなく自然と人間社会の融合」の2点が重要だと語る。つまり、ヨーロッパ由来の環境思想の多くが「自然克服」を原動力としており、それへの反動として「反人間」という思想が出てきているのに対して、里山が提示するのは「自然から価値を得る経済」と「自然と社会の中間地点の意識」だというのである。これは僕にもよく理解できる考え方で、強い共感をおぼえるところだ。
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