拓海広志「多様性を容れる文化」

 6年ほど前に僕はシンガポールのラジオ番組に4話連続で出演させていただいたことがあるのですが、そのときに収録された四方山話の内容をここに再現・紹介させていただきます。


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志田和子:皆さん、おはようございます。4回連続で拓海広志さんにお話をうかがってきましたが、今朝がその最終回となります。


拓海広志:よろしくお願いします。


志田:何でも拓海さんは旅が好きで、十歳台の頃に日本全国を旅して回られたそうですね。


拓海:ええ、十歳台の旅は楽しかったですね。鈍行列車を乗り継いだり、ヒッチハイク、サイクリング、バイクやカヤックでのツーリング、あるいはひたすら歩き続けたり、遠泳をしたりと、本当に色んなスタイルで安上がりの旅をしてました。


志田:カヤックや徒歩旅行、遠泳旅行って、結構アドベンチャーですね(笑)。


拓海:ホントにそうですね(笑)。


志田:でも、どうしてそんなに旅が好きなんですか?


拓海:色々なところを旅してみると、それぞれの土地で固有の環境に適応しながら暮らしを営む人がいますよね。そういう暮らしのあり方を自分の目で見て、ほんの少しではあるけれど身体で体感してみたいというのが僕の旅のモチーフなんです。


志田:拓海さんと言えば、アジア太平洋というイメージですが・・・。


拓海:おかしいな〜? ヨーロッパやアメリカ、中南米なんかも頻繁に訪ねて、巡ってるんですけどね(笑)。でも、確かにアジアとオセアニアについてはインドネシアシンガポール、中国、オーストラリアに住んでいたこともあって、様々なところを訪ねてきました。


志田:「アジアのカオス(混沌)」といった言い方をする人がいますけれど、ちょっと漠然とした言葉ですよね。拓海さんはアジアについてどう思われますか?


拓海:そうですね・・・。アジアの特徴は色々ありますが、まず宗教において必ずこれに従いなさいというような強権的なものが少なく、様々な宗教が雑多に交じり合いながら共存共栄しているということが言えますね。


拓海:それに、そうした宗教以前の生命観、社会観が重要だと思うのですが、東南アジアの場合は巨大な生命樹があって、そこに様々な葉=要素が混沌とした状態で交じり合っている。だけど、その生命樹を遠くから眺めると、ちゃんと幹や枝もあるし、しっかりと大地に根を張っている。つまり、近くから見ると諸要素が混沌と入り混じっているのに、遠くから見ると調和が取れているといった曼荼羅的な生命観、社会観ですね。


拓海:僕自身もそういう社会のあり方が好きなのですが、インドネシアの建国理念である「多様性の中の統一」というのは、この東南アジア古来の生命観、社会観に基づくところがあると思います。多様なものの存在を認めることによって、全体としてはバランスを取るという考え方は、現代のエコロジーの思想ともつながるものですが、多様なものが存在できる社会はそうでない社会よりも持続可能性が高いでしょうから、これはとても重要なことだと思います。


志田:社会の持続可能性ですか?


拓海:ええ。異物をすぐに排除してしまう、選択肢が少ししかないような社会は持続可能性が低く、逆に異物を思い切って受け容れ、その結果として選択肢の多くなった社会は個々の局面では様々な摩擦や衝突があったとしても持続可能性は高いと僕は思っています。そういう点からも東南アジアの社会は評価されるべきでしょうね。


志田:なるほど、それは面白いですね。でも、それは社会だけではなく、一人の人間の生き方として考えてみることも出来ませんか? 例えば、アジア的に生きるのがいいのか、欧米的に生きるのがいいのかと言えばどうでしょう?


拓海:そうですね。最近は世界全体が急速に変化してきていて、アジア的、ヨーロッパ的という言い方でくくるのが難しくなってきていますので、あまりそういう言葉を使い過ぎないように気をつけたいのですが、今日お話している文脈の中だけで考えるならば、より多様なものを受け入れながら全体の調和を目指すという東南アジア的なあり方を推したいですね。つまり、個々の人が「私はあなたとは違う」「今日の私は昨日の私とは違う」といったことを認めながら、その違いを尊重することによって、人間同士の関係や社会を築いていくということです。


志田:今日は少しホッとした気がします。今、日本も東南アジアも非常に景気が悪くて、先行きが不透明ですが、そうした中で拓海さんが東南アジアの社会は持続可能性が高いと言われたのは、何だか嬉しいですね。


拓海:そうですか? でも、あくまでも可能性ですから(笑)。


志田:では、最後の質問ですが、拓海さんはこれからこのアジアで何をなさりたいですか?


拓海:困った質問ですね(笑)。実は僕の場合は、何かこれをやるぞというようなものはいつもあまり持ってないんですよ。


志田:あれっ、そうなんですか?! 


拓海:ただ、それよりも、いつも見慣れた風景だから飽きてしまったということのないように、自分の感受性を磨き続けていたいとは思っていますし、そういう姿勢でアジアの友人たちと関わり続けたいと思っています。


志田:なるほど。拓海さん、4回にわたってのご出演、ありがとうございました。


拓海:こちらこそ、ありがとうございました。


志田:最後にお送りする曲は、拓海さんからリクエストをいただきました。映画『海の上のピアニスト』のテーマ曲『愛を奏でて』です。


(無断での転載・引用はご遠慮ください)



インドネシアのソロにて】


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