拓海広志『絶望の中を行く人に…』♪


 先日、家の書庫を整理していたら、中学時代に書いたエッセイや小説、詩が幾つか出てきました。かなり青臭い内容のものが多くて気恥ずかしかったのですが、中にはちょっと面白いものもありました。例えば、『絶望の中を』と題したこんな文章・・・。今となってはこれを書いた背景をうまく思い出せないのですが、きっと何かあったのでしょうね(笑)。


   *   *   *   *   *


【絶望の中を】


 彼が永遠の二律背反の重みに死というけりのつけ方をしてから一年が過ぎた。
 そして、僕は人間同士の本質的とも言える了解不可能性を悟ったところから歩き始めていた。
 絶望の中を行く以外に残されたロマンなどありえず、さりとて深刻ぶるのも、軽薄ぶるのも、少し違うと思った。


 目を閉じるととても幸せな時間が静かに流れる。
 が、目を開けたときには、そんな時間などなかったことに気がつく。
 記憶は残されるものではなく、作られるものであり、一方、僕の言葉はいつも僕を突き放す。


 解決しうる哀しみを、僕は哀しみとは呼べない。
 僕は存在それ自体が哀しみだという哀しみを見てしまったのだから。
 荷の重さを悟らせぬ軽やかなステップ、それが同時に救済となるような。


 それでも、僕はきっと自分の隠された内面や、また、その運命を知ることを恐れはしない人間の一人だろう。
 だから、僕はその地平からのみ言葉を発していきたい。
 やがて自分自身にけりをつける日が訪れるまで、僕はただ街と海との往還を繰り返すのだろうから。


   *   *   *   *   *


 この何だか訳のわからない出来損ないの詩のようなものを素材にして友人の石井史朗さんが作詞をし、それに僕が曲を付けたのが『絶望の中を行く人に…』です。これを作ったのは高校時代です。ちなみに、石井さんの詞に僕が曲を付けて出来た歌は、これ以外にも20曲くらいあります。


【絶望の中を行く人に…】
(詞/石井史朗 ・ 曲/拓海広志)(1980年)


 酒に酔った 夜の夢たちは
 いつもきれいさ 美しすぎる
 見たくもない夢を 押し付けられて
 溺れているのが 自分じゃないか・・・ 


 傷口を舐め合う こんな世界で
 涙を見せるのは たやすいことさ
 絶望の中を あの人が行く
 おお、なんと美しい 姿だろうか・・・


 絶望の中を あの人が行く
 おお、なんと美しい 姿だろうか・・・


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


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