拓海広志「いつも背筋を伸ばして対面したい人 : 大串龍一さん」

 久しぶりに金沢で、大串龍一さん(金沢大学名誉教授。河北潟湖沼研究所理事)、本田和さん(ものがたり人)、盛本芳久さん(石川県議会議員)とお会いし、お酒を飲みながら歓談する機会を得ました。僕は、大串さんとは今から18年ほど前にスマトラ島のパダンから車で4時間ほど走った山中で出会って以来のお付き合いで、本田さん、盛本さんとは今から8年ほど前にアルバトロス・クラブ能登ツアーでご一緒して以来のお付き合いです。


 大串龍一さんは日本を代表する昆虫学者、生態学者として知られる方ですが、いわゆるアカデミズム的な世界にこもるタイプの学者ではなく、農業や林業の現場とも深く関わってきました。また、民俗学的な方面への関心と造詣も深く、僕は初めてお会いしたときに舳倉島や七ツ島で活動する漁民の文化の話で盛り上がったことを覚えています。


 大串さんはいつも物静かで、とても優しく穏やかな態度で他人と接する方です。しかし、これまでのお付き合いの中で起こった様々な出来事を通して、僕は大串さんの人間としての芯の強さと自己を厳しく律する人生の姿勢、また人間という存在に対する深い洞察と愛情を知りました。


 大串さんはかつて『日本の生態学今西錦司とその周辺』という著作の中で、「天皇」とまで呼ばれてカリスマ的な影響力を持っていた今西錦司さんの業績を評価しながらも、その学説の問題点なども冷静かつ的確に指摘しており、僕はそれを読んだときに大串さんの文章を貫く気骨と率直さに感じ入ったことを覚えています。


 また、かつてアルバトロス・クラブが田辺の南方熊楠記念館で開催した在野の昆虫学者・後藤伸さんの講演会にも、大串さんは駆けつけてくださいました。後藤さんはアカデミズム的な世界とは一線を画して活躍した方ですが、大串さんは後藤さんの業績についても高く評価されており、そこにも僕は大串さんの公正さを見ました。


 大串さんはここ数年の間に3冊の連作小説を出版し、その文学的才能でも周囲を驚かせていますが、「太平洋戦争を知る世代が数少なくなっていく中で、自分にはどうしても書き残しておきたいことがあるのです」と大串さんは語ります。自伝的な要素もあるそれらの作品を読みながら、僕は自分も大串さんのようにしっかりと背筋を伸ばして生きたいと改めて思いました。


(無断での転載・引用はご遠慮ください)


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